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イブ

Category: post SEASONS  

 昨日からずっと飽きずに指輪を見ている。
 なぜこんなに気に入ったのか浅井自身わからないのだが、いつまで見ていても飽きない。
 きっと綺麗で可愛らしい指輪だとここまで気に入らなかっただろうと思う。そういう指輪だと須藤が嵌めないだろうから。一見ナットのような無骨なデザインだけれど、その角の部分と色の切り替え部分がなだらかに丸く、よく見ると優しく繊細にできている。
 一見無骨で本当は優しいって、もしかしたら先輩みたいな指輪なのかも。
 と一瞬思ったが、そんなことないか。先輩は見るからに優しそうだし、と考え直す。


 今日は部のミーティングがあるからと昼前から須藤は学校に行ってしまった。浅井も講義の課題があるので大学に来ている。そしてどうせなら今日はクリスマスイブなのでどこかで待ち合わせして食事でもしてから一緒に帰ろうか、という予定になっていた。
 夕方頃にミーティング終わった!というメッセージを受信したので、席を立って駅に向かう。

 地下鉄の駅を出てすぐの商業ビル内の待ち合わせの巨大クリスマスツリーの下に行き、着きました、とメッセージを送る。しばらく返事を待っているとツリーの前で記念撮影をするカップルが何組かいて、邪魔になりそうなのでそこを離れた。
 すぐ横のエスカレーターに乗って二階に上がり、吹き抜けの通路からその巨大ツリーを見下ろしてみる。本物のモミの木に様々なオーナメントと色とりどりの電球が付けられていて細かい反射がキラキラ光る。LEDの細かい大量の光に感心していると、メッセージを受信した音が聞こえた。見てみると、着いた!と一言。着いたって、どこに?とまたエスカレーターまで駆けて行って駅の出入り口を見ながら下りていく。

 そこに須藤が現れた。
 ショルダーバッグを肩に掛けて軽く駆け足で何か探すように周囲に目を動かして。
 そして、前方の巨大クリスマスツリーに気付いた。
 まだ下に下りきらないエスカレーターから浅井が大きく手を振ると、それに気付いた須藤は軽く右手を挙げて笑い、駆けてきた。

 一緒に暮らしているから毎日一緒で、今着ている服も当然今朝出て行ったままの物で、とにかくなにもかも見慣れている見飽きているはずだった。
 それでも、一緒に暮らしているからこそこうして待ち合わせをすることがほとんどなくて、いつも二人きりだから周囲に人の姿もなく人の目もなくて、こんな賑やかなところで出会うことがものすごく久しぶりで、不思議だけれどどきっとしている。
 グラウンドでは他の選手と遜色なく馴染んでいる体型だが、駅前の雑踏では誰よりも一回り大きく目立つ。もうすぐ夜になり冷えてくるから誰もが厚手のコートでマフラーを巻いたりしてモコモコなのに、須藤はパーカーにブルゾンを羽織っただけの軽装で一人だけ季節が違う。さすがにもう突然初心に戻って緊張することはないけれど、やはりかっこいいなぁと思ってしまう。
 エスカレーターを下りて歩きながら浅井はその姿に見惚れていた。

 駆けて来た須藤が目の前で立ち止まり、そのまま笑っている浅井の頬を両手で挟んだ。
「なんですか!」
 びっくりして浅井もその須藤の手を掴む。
「浅井さん、可愛いな。こんなとこで会ったら改めてそう思っちゃうな」
 須藤が笑ってそう言った。
 変なの、と浅井も笑った。

「で。何食べる?」
「なんでもいいですよ」
 そんなことを話ながら呑気にエスカレーターでレストランフロアに向かうが、扉が開いた途端驚いた。
 目の前のフレンチレストランだけでなく、並びの寿司屋にも奥のステーキショップにも待ち客の長蛇の列。
「やっぱりかぁ」
 須藤がため息をついた。
「クリスマスイブの夜に予約なしで飯食えると思うなよ!ってさっきみんなに言われた」
「そうなんですか?」
 と、訊くまでもなく目の前にその状況がある。
 一緒にエレベーターを下りた人々は競うように目当ての店に向かい、列の尻尾に並んだり店頭にいる店員に待ち時間を訊いたりしている。別の店頭では痺れを切らした若い男が大声で店員に文句を言っている。

「……どうする?」
「並びますか?」
「並びたい?」
「並びたくはないです」
「降りようか?」
「はい」
 振り向くとエレベーターはもう下に降りている。その隣のエレベーターが登ってくるところだったのでそちらに移動した。
「甘かったなぁ。とっくに予約してなきゃいけなかったんだな」
 須藤がぼやくと扉が開き、またしてもどっさり客が出てきて駆け足であちこちの店に向かって行き、その姿を見送りながら乗り込んだ。
「すごいですね。みんな熱心ですね」
「な。俺たち情熱が足りなかったな」
「全然足りないですよね。今朝思い付いたようなことじゃダメですね」
「どこか空いてるかなぁ?」
「今から探すの?」
「腹減ったよね?」
「じゃ、何か買って家で食べるのが一番早いと思いますよ」
「ここまで来て?」
「あのツリー見に来たと思えば」
 ちょうどエレベーターの扉が開き、巨大ツリーが現れた。そしてその周囲にはさっきの比じゃないほどの大人数が集っている。
「……こんなに人いたら俺絶対食料にありつけないよな。帰ろう」
 そう言いながら浅井の手を引っ張った。



 半端な時間のせいであまり混んでいない地下鉄に乗り込み、いつもの駅で降りる。
「ここの下のスーパーで買っていきます?チキンとかピザとかケーキとか?」
「そんなんでいい?」
 須藤が顔を曇らせてそんなことを訊いてくる。
「どうもおしゃれなクリスマスと縁がないよな、俺」
 続けてそんなことを呟くので、浅井は吹き出した。
「おしゃれなクリスマスがよかったんですか?」
「いや、俺じゃなくて。おしゃれな方がいいだろ?浅井さん」
「それで駅で待ち合わせなんて言い出したの?」
「そうだよ。気付かなかった?」
 気付かないです、と笑い続ける。

「それに、私こっちの方がいいですよ。部屋で二人の方がいい」
「……そうなの?俺もこっちの方がいいんだけど。でもこれだと全然変わり映えしないし」
 浅井が笑顔で見上げた。
「私どうせ毎日幸せだし、全然変わり映えしなくていいです」
 それを聞くと須藤も笑った。

 スーパーでチキンやサラダやオードブルやなんだかんだを速攻で買い、いつものケーキ屋に寄るのも時間が勿体ないと須藤が言うのでケーキも買ってしまい、部屋に戻った。
 テーブルに荷物を全部置いて腕が空いたところですぐに抱きつかれる。
「風呂入ろうか?」
「お腹空いたんじゃなかったんですか?」
「先に浅井さん食いたい」
「私は食べ物じゃないです」
「そうでもないよ」
 そう言って唇を合わせてくる。そして舌を絡めながらコートのボタンを外して手を差し込んできて腰を抱くようにして引き寄せられる。
 私食べられるのかなぁと困りながら腕を伸ばして須藤の首に抱きつくと、やっと唇を離してくれた。
「……お腹空いた」
 ため息をついてそう呟くと、そっか、と笑って身体を離してくれた。
「飯食ってから、ゆっくりしよう」
 そして続けた。
「メインは飯じゃなくその後だからな」

 メインはその後なんだ。と、浅井も須藤の目当てを思い出した。



 速攻でテーブルに買ってきた食料を広げ、全てがそれなりにクリスマスのデコレーションを施してあるためそれなりにクリスマス風情になり、電気を暗くしたりして楽しく食事を終えた。楽しかったが、やはり終わるのが早い。片付けもそこそこに、
「じゃ、風呂入ろう!」
 と須藤に引っ張られた。



 浅井が湯船に浸かり、身体を洗う須藤の背を見ている。背を向けて念入りに洗っている。この後のメインのために。
「どんだけ洗えばいいのかな?もういい?」
 そんなことを訊かれてもわからない。
「浅井さん、確認してくれる?」
 振り向いてそんなことを訊かれ、つい笑った。
「確認って、どうやって?」
「そりゃ方法は一個しかないよね」
 にやりと笑ってみせる。
 ここで?と眉を潜めると、須藤は笑顔のまま左手でバスタブを掴んで身体を向けた。
 浅井は唇を尖らせて目を伏せ、須藤の身体ではなくその左手を見た。
 その小指に、指輪が嵌まっている。

 この小指なら、その指輪なら、口にしてもいいな、と思った。
 だからその手を掴んだ。
 そして手を持ち上げてその指輪にキスする。
 それから小指を咥えた。軽く噛んで舌で撫でる。
 すると顎を持たれて顔を上げさせられた。
「浅井さん。それじゃない」
 そう言って、口から小指を抜かれた。

 それなら。
 須藤の手を引いて湯船に足を入れてもらう。そしてバスタブのヘリに座ってもらい、浅井は床に膝をついた。
「さっきみたいな感じでいい?」
 そう訊いて、須藤の左手の指輪を掴む。
「えっ……、うん、」
 指輪の嵌まった小指だと思ったら、特に抵抗を感じない。かなり太いけど。
 と、浅井が顔を下げて片手で髪の毛を押え、それをあっさりと咥えた。



 須藤はものすごくびっくりして、瞬時に全身に力を込めた。
 それにも構わず浅井はぬるりと舌を蠢かす。
 まだしばらく抵抗されると思っていたのに、突然の衝撃と快感が背骨に走り声が漏れそうになる。
 慌てて手を伸ばし、浅井の頭を押さえて、その自分の動作にも驚く。エロすぎる。
 こんなところに浅井の顔が、と思っただけで終わりそうになる。それはまずい。落ち着け。落ち着け。
 ふと目を動かすと、浅井の右手が須藤の小指の指輪に触れている。
 その指輪、どんだけ好きなんだ、とちょっと笑い、ちょっと落ち着いた。

 ちょっと落ち着くと、当然だけれど浅井の舌技は下手くそだと気付く。圧も力加減も大変にもどかしい程度でしかない。
 そしてそれも嬉しかった。
 当然だけれど、初めてのことで自分にしかしないことだから。
 体勢がエロ過ぎるが、テクは未熟で、しかもそれが嬉しい。

 とか偉そうに考えたところで須藤も未熟で初体験のエロ行為なので、結局まるで保たない。
「もームリムリ浅井さんストップごめんダメだ!!!」
 そう叫びながら浅井の肩を押し、限界を迎えそうなそれを掴み、風呂から出て浅井に背を向ける。そして何度か大きく息をつき天井を見上げた。

 まだ少し息を上げていると、後ろから首に浅井の腕が巻き付いてくる。
「先輩がダメじゃないですか」
 耳元で笑われる。
「浅井さんがあっさりやるからびっくりした」
 また大きく息を吐いて笑い、そう白状する。
「うん。そんなに嫌でもなくなった」
「なんで急に?」
「だめ?」
「全然だめじゃない」
 もう一度ため息をついて、囁いた。
「ベッドでもう一回して」
「いいですよ」
 その簡単な返事に、まじかよと笑う。
「でもその前にケーキ食べます」
 そう続けられて、まじかよと今度は項垂れる。こんなことされてその気しかないっていうのにケーキなんか食えるんだろうか。

 それでも約束は取り付けたので一度クールダウンするのもいいかも知れない。そうだな、このまま終わるのも勿体ないからな。また一から始めるのもいい、というかまた浅井さんにしてもらって始めるからいいか!と考え直した。

 それに、用意したプレゼントをまだ渡してない。
 ケーキの前がちょうどいいよな、とベッドは後にすることにした。


 薄暗いままのダイニングで浅井がざっと片付けたテーブルにケーキとソーダをセットする。
 その間に須藤が寝室からプレゼントの袋を持ってくると、浅井も椅子に座らないままにキッチンの奥からリボンの付いた袋を取り出した。
「え!なにそれ?」
「先輩こそ」
「俺はもうさっきもらったのに」
「え?」
「形のないプレゼントだったけど」
「あ、そっか。いらなかったですか?」
「いる。なにそれ?」
 そんなことを言い合いながら椅子に座り、それぞれ交換してリボンを解いて袋から取り出して、二人で吹き出した。

「同じ物-」
「ニット帽-」
「色も似てるし」
「でも私、自分で編んだんですよ」
「まじでー?そっくりだよ。俺遠征先で買ってきたんだけど」
「ちょっとこっちの方が毛糸がふわふわしてて可愛いです。ウサギみたいで」
「そうだな、こっちの方が毛糸が太いからがっちりしてる」
「温かそうです。ありがとうございます」
「これも温かそう。明日から被ってく」
「はい。……って、明日も練習あるんですか?」
「いや、練習じゃなくて、ミーティングで結論が出なかったからまた明日集まるんだ」
「……監督?」
「そう。クビにするとかしないとか」
「年末なのに大変ですね」
「いくら話し合ったって結論なんかでないのにな」
「でないの?」
「でないよ。区切りがいいから年内で決着つけようなんて、そんな簡単な話じゃないだろ」
「そうですね」
「持ち越しになるし持ち越しにした方がいいと思うし、本当言うと明日さぼりたい」
「そんなこと言って、行くんですよね」
「行くんだけどね」
 ケーキのいちごにフォークを突き刺して、続ける。

「その後は、正月は浅井さんの実家に行こう」
 浅井がフォークを止めて須藤をじっと見上げる。
「あの後全然電話もしてないんだろ?」
 図星なので目を伏せる。
「あんなふうに飛び出たっきりだもんな。俺と別れたと思ってるかも知れないし」
「……行きたくない」
「元旦の挨拶に行こう。日帰りで」
「え?先輩は帰省しないの?」
「俺も日帰りで実家に顔出すよ。浅井さんも来てよ」
「……え?元旦に地元まで日帰りで行くってこと?」
「そうそう。二人で。また車借りて」
 浅井が絶句する。

「この前の様子だと、浅井さん一人で実家に帰すのが怖いしさ。まず俺のこと認めてもらってから、一人で帰省して。それまで俺同伴」
「……同伴?」
「それかもう結婚しよう」
「……」
「結婚してからだったら一人で帰すけど、それまでは俺同伴」
「……そうなんですか」
「うん」
 最後のスポンジを口に入れてから、続けた。

「俺がいないとだめでしょ、浅井さん」

 その断定に、ふふ、と笑って頷いた。

「俺がちゃんと連れて帰るから、安心して実家に挨拶に行こう」
「はい」
「うん。じゃ、まずはその前にベッドに行こう」
「まだケーキ食べてない」
「俺が食べる?」
「だめ」
「早く食べてよ」


 帰らないつもりでいた。まだなにも考えられずにいた。思い出さないようにしていた。
 でも、先輩と一緒だったら怖くない。先輩が連れ帰ってくれるなら。

 と、じんわり感動しているうちに、ケーキがなくなっていた。

「ああ!いちごしかない!」
「遅いからだよ」
「だっ、」
 文句を言おうとしたらいちごを口に入れられた。
「さぁベッド行こう」
 そして腕を引かれた。
 ひどいずるい私のケーキ!と文句を言っているうちに笑えてくる。
 ベッドに下ろされシャツに手を差し込まれ、下着を脱がせながら肌を撫でられる。なんとか全裸にされる前には布団に潜って逃げるが、すぐにすっかり脱いだ須藤が飛び込んでくる。
 腕を巻き付けられて脚も絡められて隙間が無いほどにぎっちり抱きしめられてキスされて、身動きできない。
 やっと力を緩められたと思ったら、
「浅井さん、さっきの続きして」
 と、唐突に言われた。

「……先輩、私のケーキ食べたからしない」
「えええええ!いらないんじゃなかったの?!食べたかった?じゃ明日買ってくるよ!」
「じゃ私も明日にする」
「嘘!」
 慌てる須藤に笑いながら抱きつく。須藤もきつく抱き返して、嘘だよね?と訊いてくる。

 どうしようかな。
 なんて、しょうがない悩み。

 でもきっとこんなことで悩めることが幸せ。
 いつまでもこんな日が続いたらいいなと思う。



 でも、どうしようかな?






   終わり




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