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クリスマスイブイブ

Category: post SEASONS  

 クリスマスイブイブの日曜日、須藤はいつもどおりに早起きしてランニングに出て朝食を食べに行き、部屋に戻ってきてもまだ浅井がベッドの中にいたのでまた服を全部脱いでその横に滑り込み温かい身体を抱きしめた。驚いた浅井が悲鳴を上げて逃げようとしたが無駄だ。
「いつまで寝てんの?」
 脇腹をざらりと撫でるとくすぐったそうに浅井が腰を捻る。そしてそれが艶めかしいのでさらに須藤が肌に指を滑らせ下着に潜らせる。
「……やだ、」
 腕で抗いながら半分泣き声で懇願してくるが、むしろ煽られる。
 どうせ今日は予定はなにもない。一日中ここでこうしていても構わない。ここでこのままずーっとこんなことをしていられる夢のように幸せな一日。そんなことを思い付き、そのまま指で下着を脱がそうとした。
 しかしそこで手をがしっと掴まれた。同時に冷たく訊かれた。

「……先輩。今日はしないんじゃなかったの?」

 今日はクリスマスイブイブ。
 そうだった。
 クリスマスイブは明日だから。
 明日のクリスマスイブには半年前から予約してあった誕生日からさらに二ヶ月も延期した約束が果たされる予定になっているから、そのために前日にはしないと昨日宣言したばかりだった。

「……まだ、朝だからいい。今日の夜から禁欲する」
「夕べが最後って言ってました」
「今回が最後」
「やだ!」
 とうとう浅井が怒って身体を起こした。
「朝からすると一日潰れちゃうんだもん!」
 怒る浅井に見下ろされる。
「……潰れないよ。一日中セックスできるんだよ?」
 須藤がそう呟くと、浅井は立ち上がってベッドを下りていった。

 浅井さん、たまに怒りっぽいよな、と思いつつ須藤ものろのろとベッドを下りて、脱ぎ散らかしたばかりのシャツを被る。
 ダイニングに行くと、洗顔を終えた浅井が暖かそうなニットを羽織って朝食の準備をしていた。
「先輩も食べる?」
「食べる」
 すでに食べたというのにまた食べる。
 ただ浅井の朝食は相当に軽食なので須藤にとってはデザート程度でしかない。

 食べるのが遅い浅井に合わせてぽつぽつ摘まみながら、今日は何しようか?と訊いてみる。
 明日も振り替え休日なのだが残念ながら須藤は部のミーティングがあるために身体が空かない。クリスマスイブなのに、と部員全員怒っているがしょうがない。なので日中のデートはイブイブに済ませ、イブは夜だけ。ただ須藤はイブの夜だけが特に待ち遠しいのでそこに邪魔が入らない限りどうでもいい。

「ねぇ先輩。約束があったじゃないですか」
「約束?明日の?」
「明日?」
「明日の夜」
「……それじゃなくて」
「その他に約束?」
「先輩の誕生日に。一緒の、お揃いのアクセサリー買うって、」
「ああ。結婚指輪。買いに行こうか?」
「……」
 須藤を見上げている浅井の頬が赤くなる。
「え?違った?」
「ちょっと違います」
「指輪じゃなかった?」
「指輪です」
「じゃあ結婚指輪だろ?」
「……まだ、結婚してないので、ペアリングです」
「結婚指輪と違うの?」
「違います」
「なにが?」
「わかんない」
「わかんないの?」
「よくわかんない」
「じゃ、どっちでもいいか。どこに買いに行く?」
「調べてあります」
 赤くなったままにこりと笑い、浅井がスマホを取り出した。



 地下鉄を下りて地上に出ると街はすっかりクリスマス風情で煌びやかだ。まだ雪は降らないものの風がある分寒く、浅井はもこもこのコートですっかり膨れて須藤の腕にしがみつき風除けにして歩く。
 スマホを見ながらデパートの並ぶ通りを一本入る。看板を見て探しながら、商業ビルの2階にひっそりとあるその店をやっと見つけた。アクセサリーショップらしいからきっと華やかな可愛らしい男子禁制のような店なのだろうと思っていたら、それほどでもなく雑貨屋のような文房具屋のような案外チープな店構え。
 自動ドアが開いて中に入ると、狭い店内に結構な人数がいて賑やかだ。カウンターの横にベンチがあり、座って何かを待っている客も数人。カウンターを見てみるとその奥で店員が背を屈めて作業している様子。
「文字彫ってくれるらしいですよ。名前とか数字とか」
「それを待ってるんだ?俺らも彫ってもらう?」
「何を?」
「何を彫るもんなの?」
「……さぁ?」
 とりあえず、展示してある指輪をいろいろと見てみることにする。

 真ん中で大きく場所を取っているネックレスコーナーを回った奥に指輪コーナーがあるが、すでに二組のカップルに陣取られていて須藤たちはその間にはまり込んでそこにある物から見ることにした。
 そして、ちょうどそこにあった指輪に、二人同時に手を伸ばした。
 当然手がぶつかり、お互い驚いて顔を見合わせて、それから笑った。

「これ?」
「これ」
「ちょっとこれ浅井さんにはどうかと思うよ」
「だって、これだと先輩しやすいでしょ?」
「うん。多分」
「ね。幅が太くて角があって工具の部品みたい」
「これ絶対女子用じゃないよ」
「そんなことないですよ。ゴールドと黒のコンビでこっちはゴールドとピンクのコンビだからペアですし」
「色はね。でも形」
「だって、細い指輪は先輩の指に似合わなそうだもん」
「そりゃそうだけど。でも浅井さんがこれ?」
「かっこいいですよ。それに、先輩とお揃いなんだし」
「え?これにする?」
「これにする」
「まじで?こんな速攻で決めていいの?」
「だって先輩もいいと思ったんでしょ?」
「まぁ、ちょっと気にはなった」
「だからそれで決定。何か彫ってもらう?」
「ほんとにこれ?」
「ほんとにこれ」
「すげーな浅井さん」
「先輩サイズどれ?」
「どの指にするの?」
「……。先輩どの指も無理そう」
「まじ?小指ぐらいには入るんじゃないの?」
「これだと入るかも?」
「無理だ」
「じゃ、これ?一番大きいサイズです」
「ああ。ギリ小指」
「じゃ、それ!私も小指のサイズ探しますね」
「浅井さん細いもんな。選び放題だよな」
「これ。決定です。レジ行きましょう」
「ほんとにこれでいいの?」
「いいの。何彫ってもらいます?」
「んー」

 そしてレジに行き、普通何彫るもんなの?と訊くと、だいたい二人のイニシャルが多いですかね、という応えだったのでそのまま頼んだ。ちょうど待ち客がいなくなったところですぐに作業を始めてもらい、短く簡単な文字だったのですぐに出来上がった。
 一応ペアで小さな箱に入れてもらい、包装してもらう。浅井がその箱を入れた小さなバッグを嬉しそうに受け取っている。こんなことが嬉しいんだなぁ、と須藤も笑う。

 そこを出てすぐ近くの喫茶店に入り、浅井がさっそく箱を開けて指輪を取り出した。
「先輩、小指出して」
 そういいながら浅井が左手を差し出してくる。変な感じだな、と思いながら言いなりに指輪を嵌めてもらう。その後に浅井が自分で指輪を取り出して嵌めようとするので、おいおい!と慌てて立ち上がってその手を掴んだ。
「俺がやるよ」
 浅井はきょとんと見上げてから、ふわりと笑った。

 向かい合ったまま、互いに指輪を嵌めた小指をテーブルに並べる。
「先輩の指に似合いますよね」
「ごついもんなぁ。浅井さんの指にはちょっとでかすぎないか?」
「これがいいんです」
「そうか?」
「そうでしょ?」
「そうなのかなぁ」
「そうなんです」

 浅井が自信満々に小指のリングを眺める。
 見慣れてくるといいような気もしてきた。なにしろ自分の指に嵌まってるものとお揃いなのだし。と須藤も納得した。




 そして夜。
 明日のために禁欲すると昨日から宣言してあるというのに、浅井が纏わり付いてくる。
「浅井さん。俺今日我慢するんだよ」
「我慢してください」
 そう笑って首に抱きつき頬を寄せてくる。
「もしかして浅井さん、したいの?」
「そんなことないです」
 耳元で囁かれる。

 伸ばしてきた指が須藤の腕を取り、肘を曲げさせて手を取って指輪の嵌まる小指を掴んだ。それを見て須藤が笑う。
「そんなに指輪気に入った?」
「はい」
 須藤の胸に背を預け、指輪の嵌まる左手を胸元に持ってきて自分の左手を重ねて、いつまでも並べて見ている。
 月明かりしかないからはっきりは見えないというのに、嬉しそうにいつまでも触れている。

 その伏せた横顔が可愛かったので、空いている右手で顎を上げてキスした。
 そして結局、胸元で触れられていた左手もそのまま肌を覆い、禁欲の宣言を破棄した。



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