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 とにかく土地が決まってからはあっという間に事が進み、我が家はもうすぐ完成予定。
 結局果維の希望通りに先生の土地に新築することになり、お母さんの希望通りに窓は少なめ小さめ、娘たちの希望通りに外壁は黒、お父さんの希望通りに駐車場も広め、唯一僕の希望だけが通らない。
 通らないというか公表してないのだけれど、お母さんと同室というわけにはいかなかった。壁を挟んで隣の部屋、も諦めた。間違いなくその壁に穴を開けそうだから。そんなものがバレたらどう言い訳したらいいのかわからない。死後発見されでもしたら目も当てられない。
 ただ子供たちは全員二階に部屋を作り、一階には僕とお母さんしかいない。だからと言って何か出来るかというと何もできない。今まで通りにただの継母と継子の関係を貫くだけ。

 それでもやはり新居は楽しみだ。長年住んだ今の部屋を去ることに寂しさは全く覚えないほど楽しみにしている。と言うのも、なぜか新しい部屋のレイアウトが今の部屋とほぼ変わらないから。そんなつもりはなかったのだけれど、設計士と相談しながら部屋の位置ドアの位置窓の位置等を決めていくうちに、ほぼ今の部屋のままになってしまった。ウォークインクローゼットを作るから外に出ている収納が無くなるだけ広くなってシンプルにはなるけど。40年近くこの部屋に住んで、今後も死ぬまで同じレイアウトの部屋に住むことになるようだ。変わり映えしないなぁと思いつつも多分これが落ち着くからこうなってしまったんだろうな。

 なんて感慨に耽るヒマはそうない。やらなきゃならないことが多すぎてなんのヒマもない。休日が潰れることは当然で、平日でものんびりできる夜なんかない。できる限りのことをお母さんがやってくれるけど、できないことも当然多くあって、どうしても僕が時間を融通しなきゃならない。いつになったらこの忙しさは終わるのかとうんざりしている。

 そしてやっと昨日、養生ネットと足場が外れた。
 そして、黒い新築戸建てが姿を現した。

 これで工事が終わりじゃないし僕の繁忙も終わりじゃないけど、一段落付いた気がした。
 久々の道場の帰りに、すっかり暗くなった夜の住宅街でさらに黒い家を果維と一緒に見上げ、ため息をついた。

「一応は、僕たちの城だよね」
「城か。黒だから烏城だ」
「そっか。烏城か」
 そんなくだらない例えでも、疲れ果てている僕たちは笑った。



 今日もみんなで家を見に行って、それから各々新居の準備を進める予定。僕はやっと始めたばかりの荷造りの続きで一日潰れる予定。
 なのだけど、夕べ遅くにお父さんから連絡があって、それをみんなに伝えなきゃならない。
 朝起きて食卓に行くと、みんな席に着いていてすっかり張り切っている。

「昨日足場外れたんだよねー?」
「まだ見てないから楽しみー!」
「かっこいい?黒い家って」
「目立つよ。なんか周りから浮いてる感じ」
「新しい家なんてどんな色でも見慣れないものよ」
「でも黒はかっこいいよねー!楽しみー!」
「あーあー」
「結生も楽しみよねー」
「いつ引っ越せる?予定通り?」
「ちょっと押してるらしいよ」
「年内だったらちょっとぐらい押してもいいけどね」
「そうだね。いくら考えてもまだまだ何か足りない気がするし」
「悩んじゃって全然決定できないし」
「何悩んでるの?」
「本棚。大工さんに作ってもらったやつ。サイズ間違った気がして、自力で修正できるかなって」
「大工さんに頼んだらいいじゃない。勝手口のドアも変えてもらおうと思ってるから頼んであげるわ」
「いいのかな?」
「むしろ大工さんに頼むべき。プロなんだから仕上がりが絶対違うよ」
「そうね」
「そうだね!」
「そうだよ」
「ところで、お父さんが入院したらしいんだよ」
「へー」
「へー」
「今日は家見に行ってからどうするの?」
「私やっぱ家具屋さんに行きたいんだけど」
「ベッドがまだ決まらないのよね」
「ベッドは重要だよね!」
「私そろそろお庭の勉強したいんだけど!」
「お庭はちょっと狭いから工夫がいるわよね」
「でもシンボルツリーは欲しいじゃない?」
「キンモクセイとかジンチョウゲとかいい香りの木がいいなー」
「それでお父さんはどうして入院したの?」

 みんなにスルーされたが、心優しい果維が訊いてくれた。

「心筋梗塞だって」
「心筋梗塞?!」
「遠藤先生の真似?!」
「遠藤先生の真似!」
「救急車で運ばれたの?!」
「いや、健診で指摘されて入院することにしたって」
「なぁーんだ軽症ー!」
「真似するなら救急車で運ばれなきゃー!」
「それならすぐ退院なんじゃないの?」
「いや、一ヶ月入院するって」
「なにそれー!!!」
「怠けてるんじゃないのー?」
「救急車で運ばれた遠藤先生が一週間で退院してるのに!」
「案外重い症状なんじゃない?」
「重くない重くない!」
「うん。重くはないらしい。ただ時間が掛かるみたいで、」
「ほらー!お父さん怠け者だから免疫細胞まで怠け者なんだよ!」
「はたらけ細胞!」
「はたらけ!」

 散々罵られているが、一応提案してみる。

「それで、今日家見に行った後に、お見舞いに行ける?」

「いやよ」
「無理」
「行かない」
「ちょっと急だよね」

 全員に速攻で断られたが、一番最初に拒否したお母さんを窘める。

「あのねお母さん。お父さん何度も電話したらしいよ?着拒してるの?」
 お母さんは口を結んでじっと僕を睨む。
 着拒はしていない、ただ出ないだけ、ということは何度も聞いて知っていた。だいたいお母さんが出なかった場合僕に掛けるのだから特に不便もないのだけれど。
「まぁお見舞いはこんなに大勢で行く必要もないと思うけど、保険の証券が欲しいらしいんだよ」
「証券?」
「入院保険か何か、入ってるんでしょ?長期の入院になるから使いたいみたい」
「入ってたと思うけど、持って行ってなかったかしら?」
 お母さんが首を傾げた。
「証券とかのそういう書類、もう荷造りしちゃった?」
「してないわよ。すぐ出せると思う」
「じゃ、後で出してくれる?」
 渋々お母さんは頷いてそのまま立ち上がったので、僕も席を立って後についていった。

 リビングの奥のドアを開けるとお母さんの部屋。もうずいぶん荷造りが進んでいてダンボールの山。そんな中で、本棚の一列にまだファイルボックスが並んでいる。その一つに手を伸ばした。
「保険関係は全部これに入ってるのよ。あるとしたらここにあるわ」
 そう言いながらその中の書類を机の上に広げる。生命保険や医療保険が家族分。
「保険に限らず重要書類なんかは全部持って行ってると思うんだけど……」
 お母さんが困惑するとおり、僕たちと子供たちの保険書類しかない。
「でもお父さんは持ってないって言ってたよ」
「元々保険に入ってないんじゃないの?」
 書類を確認しながらお母さんが乱暴なことを言い出す。
「そうなのかな?そっちは?」
 隣に同じようなボックスがあったから手を伸ばしてみる。
「それはマンションの家財保険とか車の任意保険。人じゃなく物の保障だけ入れてある」
「ここにはないか」
「ないと思うわよ」
 そう言いつつ一応開いたら、ひらりと封書が落ちてきた。

「……あった」
「お父さん物扱いだったね」
 僕がそう言うとお母さんは笑い出した。



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