FC2ブログ


6-9

Category: JOY  

「だって野球部OBが野球部の備品で暴行事件起こすなんて、最悪じゃない?それも相手の思う壺だったのよ。だけど、来てくれたの」

 ああ

「一気に三人とも倒してくれて、だけど野球部とか進学とか、私のせいでそれが全部ダメになると思って、」

 すげーよ……先輩

「だから、私もう先輩とは、付き合えないって思ったのに、」

 浅井が言葉を止めて、大沢を真っ直ぐ見下ろした。

「そしたらね、先輩私に、逃げるなって言ったの」

「逃げるな……」
 大沢が繰り返す。
「そう、逃げるなって。自分に逃げるなって。意味、わかる?」
 わかるはずがない。
 浅井が首を傾げて続けた。
「自分に逃げるなって。逃げるなら俺のところに逃げて来いって」


 俺のところに逃げてこい。
 すげーな先輩。そんなセリフ吐いたことない。考えたこともない。
 襲われかけた彼女目の前にして。そんなこと言ったんだな。高校生のくせにすげーよ先輩。
 大沢はもう完全に物語に呑み込まれている。


「でもね、野球部も先輩も何のお咎めもなかったの。それどころか先輩警察から表彰されたしね」

 浅井が偉そうに言うので、大沢が笑う。
 直後に浅井がジーンズのボタンを外したのでまた大沢が全身に力を込めた。

「その後、先輩卒業してから一年はほとんど会えなくて、先輩は野球があったし、私は勉強があったし」

 名大だもんな、と大沢が息を吐く。

「だけど我慢できたのは、先輩がね、」

 先輩が。先輩が。浅井さん、どんだけ先輩が好きなんだ。
 それなのに浅井は大沢の腹筋の筋をなぞっている。

「この先60年一緒にいるんだから、一年ぐらい我慢できるって言ったの」

 60年、生きるつもりだったんだよな。先輩。
 大沢が口を開けて息をしている。苦しいのだ。

「それで我慢できた。それで、名大に入れて、本当に嬉しかった」

 だって東大蹴ったんだろ?大沢は苦しさを紛らすために身体を捻り、左手で自分の短い髪の毛を握った。


「こっちに来てからは、できるだけ一緒にいた。先輩は野球で忙しかったから夜にしか会えなかったけど。だけどほとんど毎日一緒にいた」

 大沢が身体を捻ったタイミングで、ジーンズを腰から下ろされた。
 浅井の指はもう温かくなってきているが、大沢は一瞬全身が冷える思いがした。
 気を紛らすために浅井の話に集中する。

 ほとんど毎晩一緒にいた、ということは、ほとんど同棲と言ってもいいくらいだ。俺にはそんな経験はないな。

「豊田の花火大会には2回行ったよ。笑うぐらいすごいの」

 ああ、おいでん祭りな。俺も行った。女と。
 浅井が腿を握るので、マッサージだと思い込もうと大沢は心で抵抗する。息が速くなってきている。

「毎年行くつもりだったの。そう、約束してた」

 大沢が目を開けて息を止めた。

「秋に、事故があって」



 ここからだ。
 ここから、浅井さんがどんなに嘆き悲しんだか、どんなに彼を必要としていたか、語るのだ。いまだにどんなに愛しているのかも。
 そうか。
 たしかにこれは仕返しだ。
 俺なんかには全然適わない男だったのだと、俺に思い知らせる。

 こんなにひどい罰はないだろ。


 大沢はそう覚悟した。



back | menu | next
スポンサーサイト

 


Comments


 管理者にだけ表示を許可する


12  « 2019_01 »  02

SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

categories

counter




.