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10-5

Category: INFINI  

 親二人が突然いなくなって食卓が寂しくなったが、子供たちは賑やかなので変わらずに騒ぎながら鍋をつついた。
 そろそろ食べ終えそうな頃、この後二階に行ってさっきのパスワードやろう!お菓子も持って行こう!もうこれごちそうさまー!と二人とも食器を持って立ち上がった。じゃあ僕も、と健介も食器を流し場まで持って行く。
 そこに奥さんが慌てたようにやってきた。
「あら、食べ終わった?食器片付けてくれたのね、ありがとう」
 取って付けたような笑顔でそう言い、
「健介君、お風呂沸いてるからどうぞ。それから二人とも二階に行って勉強しなさいね!」
「勉強ー?なにそれー」
「するするー。超するー。だからお菓子持ってっていい?」
「いいけど食べ過ぎないようにね」
「はーい!」
 子供たちは喜び勇んで仏壇の前のお菓子をザーっと抱えてそのまま階段を駆け上がっていった。
 健介は客間の自分の服を取りに戻りそれから浴室に向かったが、その途中の廊下で熊谷の部屋から言い争う声が漏れ聞こえた。

「……た、なんでそんな軽はずみなこと、」
「……ない、絶対違うんだ、できるはず、……」
「はずもなにも、心当たりあんだろ、……たい、家庭持ってて、」
「……つい、……つだってそれは、わかっ……」
「あんたが一番悪い」
「わかっ……」
「……うするつもりだよ?いつ生まれ……」


 なんとなく、情けないと思いつつ、健介は一つの想像しかできない。
 しかしそれはあまりに下品なので別の可能性を探した。
 服を脱いで身体を流してお風呂に浸かり、考え続けた。
 が、別の筋を発見できないまま風呂を上がり服を着てまた廊下に出ると、まだ声は漏れ聞こえている。
 さすがにもうこれ以上聞いちゃいけないな、と客間に行こうとして廊下を曲がると、階段に兄弟が並んで座っていた。
 びっくりして声を上げそうになったが、二人とも速攻で指を口に当てて、静かに!のジェスチャーをしたので、健介も手で口を押えてなんとか堪えた。

 依然として熊谷の部屋からは話し声が漏れ聞こえているが、もう言い争う大きめの声ではなく相談するような控えめなボリュームになっていて内容はほぼ聞き取れない。
「……何やってんの?こんなとこで」
 多分盗み聞きしていたのだろうけど、どこまで知ったのかな?と思いつつ訊いてみる。
「……今来てるの、泉の不倫相手だよ」
 そうじゃないかと思っていたから驚かない。
「しかもさ。酒飲んでる。あいつ飲酒運転してきた」
「え。そうなの?この吹雪の中?」
「最低でしょ」
「じゃ、泊まっていくの?」
「おかしいでしょ?泊まるなら泉の家に泊まればいい」
「うちに来るなんてさ」
「そうだよ。だいたい、泉の家に来たんだろ?なんでうち来るんだよ」
「酔っ払ってたって歩いて行けるだろ!」
「まぁそう言うなよ」
 健介は少しほっとした。どうやら相談の内容は聞こえていなかったようだ。
「荷物置いてから二階に行くから。スマホの設定しようよ」
「わかった!」
 そう応えて、二人は階段を上がっていった。

 誰もいないのでダイニングの電気は消えていて、リビングは一応無人ながら明るい。そこを通り抜けて客間に戻り服をバッグに仕舞ってスマホを掴んで兄弟の部屋に向かう。なるべく静かに歩いて音を立てないように階段を昇っていると、熊谷の部屋の戸が開いて奥さんが出てきた。
「あら、健介君お風呂上がった?」
「ええ、はい。ありがとうございました」
「それじゃ二人にも適当に入るように言ってね。それから適当に寝ちゃうように」
「適当に?」
「ちょっとこれから、出てくるから」
「出てくる?こんな吹雪に?」
 健介がびっくりして大声を出したので、二階から兄弟が顔を出した。
「あんたたちもお風呂入りなさいね。ちょっとおじさん送ってくるから」
 兄弟はむっとして返事をしないので健介が訊いた。
「送ってくるって、」
「うん。おじさんの車をうちの人が運転して、帰りは私の車に乗ってくるのよ」
「代行運転みたいなこと?」
「そうね!それじゃあよろしく。そんなに遅くならないと思うけど」
 そう言って奥さんは靴を履き玄関を出て行った。

「……ほんっとに厄介なおっさんだよな」
「なー。泉なんかと不倫するようなおっさんだもんな」
 ぶつぶつとおっさんを罵る二人に、とてもさっき聞いたことは教えられないなとまた思う。
「まぁいいじゃん!とりあえず、これの設定やろうよ」
 そう笑ってスマホを示した。


 でも結局、暖かい兄弟の部屋でスマホを弄りながらも、さっきの話題が続く。
「だいたいさぁ、なにが最悪って、あのおっさん泉の働いてるホテルの社長なんだよ」
「ホテルの社長?従業員に手出したんだ……」
「最低だよね」
「もっと最悪なのが、仕事紹介したのがうちの父さんだってとこだよ」
「え。大地さん?」
「うん。泉って全然身寄りがなくて知り合いも仕事もなかったからね」
「泉の家だって実はうちの持ち物で、ただで住んでると思う」
「そうなんだ?そこまでしてあげてるんだ」
「うん。そこまでしたのに、紹介した社長と不倫してんの」
「……」
「もう追い出しちゃえばいいよね」
「このまま続いたらなんか事件になっちゃいそうだしさ」
「なんか起こる前に泉なんかと縁切りたいよ」
 そう言い捨ててため息をついた。


 その時、下の玄関が乱暴に開く音が聞こえた。
 まだ大地と奥さんが戻ってくる時間ではない。
 こんな吹雪に、誰が。
 慌てて立ち上がって階段を数段降りて、玄関を見下ろした。


 そこには、雪でまだらに白くなった大女が立っていた。



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